その1 初期リーディング作品を舞台化した公演。

枝分かれの青い庭で 舞台版
横浜美術館

【ストーリー】『匂い』をテーマにした作品。ある脳外科医が、海賊版の百科事典に偶然見つけた「ウクバル」という言葉。その、架空か現実かわからない言葉を、興味本位に調べていくが、国会図書館にはない。90年代初頭はまだインターネットで調べることはできなかった。諦めて忘れかけていた頃、香料会社の研究所で働く患者の口からウクバルという言葉に再び出会い、そのうちウクバルそれ自体の百科事典が見つかり、それは国なのか概念なのかという論争が巻き起こり、やがて世界はウクバルとなっていく。

【執筆意図】
アルゼンチン作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの書いた著書の中に『トレーン・ウクバル・オルビステルティウス』という幻想小説があります。ボルヘスが友人と共に見つけた百科事典のトンデモ記述に興味を抱き、その記述を調べていくうちに、その記述が年を経て真実味を増していくという話です。

言葉がネット上で転送され、引用され、そのオリジナルが何だったのか、どこにあったのか、果たしてそれは事実そこにあったのか? ネット上の言葉の真実味が曖昧な現代を予感していたかのようなボルヘスのような迷宮世界を今に描きたい、と思い、本作品を執筆しました。

合成か、天然か? 自然界に豊かさを与えている香りは、実はわずかな数の分子で構成されているらしいです……

【作品コピー】
すべてではないあらゆる未来へ、 わたしの枝わかれの庭をゆだねよう。 時間に損なわれない中心を獲得するために。 文書から別の文書へ無数に転送されていく、ハイパーなボルヘスの文書を引用し また引用せず、ときに存在しないテクストの注釈や出典を付けつつ。
脳と時間の網の目を描き出すもうひとつのワールド・ワイド・ウェブ。

脚本・演出:平松れい子
原案;ホルヘ・ルイス・ボルヘス『トレーン・ウクバル・オルビステルティウス』
映像・美術:青木祐輔
照明:佐々木真喜子(ファクター)
音響:杉沢守男(ビズサウンズ)
記録写真:岡野圭
記録映像:萩原磨
アーカイブ:船田巧
プロデュース:三宅文子
宣伝美術協力:山下工美(なんばパークス/南海都市創造収蔵)
写真提供:アートフロントギャラリー
主催:ミズノオト・シアターカンパニーPLUS
共催:エイブル・アート・ジャパン、横浜美術館
協賛:明治安田生命保険相互会社
協力:にしすがも創造舎
協賛:株式会社ナナオ(FORIS TV)、株式会社ビジョンテクノネット(超指向性音響システム)、旭硝子株式会社(理化学実験用ガラス機器)
日時:2009年4月17日~19日
会場:横浜美術館・レクチャーホール

【出演】 下総源太朗 綾屋紗月 好宮温太郎(タテヨコ企画) 三角みづ紀 桑原滝弥 加治慶三 イシダユーリ

【演出ノート(当日配布パンフレットから)】

先日、500ギガの記憶容量ができるハードディスクを9000円で買いました。少し前までは記録の単位の1ギガなんて途方もない容量だと思っていましたが、そのうちテラという単位の上をいく1ペタや1エクサのUSBメモリが1980円で買えるようになったら、なんだか自分がもっとだらしなくなりそうです。

たとえば半導体メモリの技術進化と、若年性認知症との関連を考えるのは行き過ぎでしょうか。

ちなみに単位が小さくなっていく方は、1ミクロ、1ナノ、さらに続くピコ・フェムト・アトの技術も開発の先にあります。この単位を日本語でいうと1分、1厘、1毛・・・そして果ては1涅槃寂静という単位にいきつきます。

テクノロジーの進化がニルヴァーナとなり得るのであれば、心の平和の境地も夢ではないのでしょうか?

さて、この作品は共生、多様性、社会的包括が声高に叫ばれるこの時代に、障害の概念そのものを再提示するような作品づくりを目指し、俳優だけでなくADHD、発達障害、アスペルガー症といった方との対話や共同作業が稽古の基礎となっています。

情動によるコミュニケーション、言葉によるコミュニケーション、それが分化しつつある現代を俯瞰する装置として、超指向性スピーカーを使用しつつ、言葉がネット上で無数に転送、引用され、そのオリジナルがなんだったのか、どこにあったのか、はたしてそれは事実そこにあったのか、そんな曖昧な現代を予感していたかのようなボルヘス的迷宮世界をお届けできればと思います。

【劇評 日本経済新聞記者】100年に一度の不況と言われながら、街には以前と変わらないように人が行きかう。生活に不安を抱えて弱々しくはあるのだが、豊かさ、正確に言えば過去に経験した豊かさの亡霊がいまだに漂っていて人々の意識を支配している。しっかり前を向いて歩いているつもりで、ふと下を見ると自分の足が消えている。もう少し遠くから見れば、人間とは、歴史という空気の層を過ぎていく風なのかもしれない。地上にへばりつこうとしながら、少しずつ宇宙へ吸い出されていく大気の構成要素なのかもしれない。あてどない社会に小さな不安の叫びを上げているという舞台だ……続き


その2  初期リーディング版
作者が読み聞かせるドラマリーディングの形でスタートした初期作品。

東京・渋谷のカフェおよび横浜黄金町バザールにおいて実施されたリーディング公演

概要
 香料メーカーの研究所で働き始める派遣社員が主人公。合成の香りがフックとなって甦る忘れていた過去の記憶。それだけでなく、他人の記憶やニュースの記録も主人公の脳に呼び覚まされていく…。

『出鱈目な1日』
2008年9月6日(土) 渋谷/マシュルームラウンジ・マド

『枝わかれの庭』
2008年9月20日(土) 横浜/黄金町バザール・試聴室

黄金町バザール
かつて違法な特殊飲食店が軒を連ねていた横浜市黄金町に誕生したアートスタジオ。このスタジオをメイン会場とし「黄金町バザール」が開催された。 地域とアートの共存を通して街並が新しく生まれ変わることをめざす事業であり、街の在り方を見直すアイデア、イベントなど多彩な分野を取り入れて構成されている。


その3  俳優ソロパフォーマンス版

俳優の熊谷知彦さんよりリクエストを頂き、2018年7月、本作品がソロパフォーマンスとして上演されました。

『枝分かれの青い庭で』

脚本:平松れい子
演出:平松れい子・熊谷知彦

出演:熊谷知彦
企画:前田登和子
日時:2018年7月12日~14日
会場:東京 南青山ギャラリー・COPER研究所
概要:
 香料メーカーの研究所で働き始める派遣社員が主人公。合成の香りがフックとなって甦る忘れていた過去の記憶。それだけでなく、他人の記憶やニュースの記録も主人公の脳に呼び覚まされ…。

動画が以下から見られるようです。

1 https://www.youtube.com/watch?v=6i3-xCnBlrg&list=PLhwZD25SuEN7vwXc42dUcvxNdPWtMQD70&index=4

2 https://www.youtube.com/watch?v=2hKUoZjyRvw&list=PLhwZD25SuEN7vwXc42dUcvxNdPWtMQD70&index=5

3 https://www.youtube.com/watch?v=oSLZni8Mk8Y&list=PLhwZD25SuEN7vwXc42dUcvxNdPWtMQD70&index=6